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51
手に速度が馴染む
坂道は距離のように続き
俯瞰する
鶏頭に良く似た形の湾に
昨晩からの雪が落ちている
ポケットに手をつっこめば
速度はあふれ出し
また新たな速度が生成され ....
庭に雑踏が茂っていた
耳をそばだてれば
信号機の変わる音や
人の間違える声も聞こえた
ふと夏の朝
熱いものが
僕の体を貫いていった
雑踏は燃え尽きた
かもしれないが
庭 ....
41
市民会館の大ホールを
ゼリーは満たしていた
屋外では雨が
土埃の匂いを立てている
観客の思い浮かべる風景は
みな違っていたが
必ずそれはいつか
海へとつながっていた
....
31
世界が坂道と衝突する
アゲハチョウの羽が
誰かの空砲になって響く
内海に
大量のデッキブラシが
投棄された夏
遠近法のすべてを燃やして
子等は走る
....
21
カレンダーを見ると
夏の途中だった
日付は海で満たされていた
子供だろうか
小さな鮫が落ちて
少し跳ねた
恐くないように
拾って元に戻した
22
フライパ ....
11
ジャングルジムの上で
傘の脱皮を手伝う
またやってくる
次、のために
海水浴の帰り道
人の肌が一様に湿っている
12
ピアノを弾くと
鍵盤がしっとり ....
「序詞」
ゆりかごの中で
小さな戦があった
理不尽な理由とプラントが
長い海岸線を覆いつくした
けたたましくサイレンが鳴り響き
その海から人は
眠りにつくだろう
....
光合成が不得意の僕らにまた夏の陽が降り注ぐだろう
屋上のベンチに座り互いの塩分濃度を確かめ合った
生き物の忘れていった生ものが機体の上で腐りかけてる
メデューサが美容院に ....
バスに乗る
名前だけが剥がれていく
何かの間違い、というより
むしろ略式でも正しいことであるかのように
良かった、わたしたちは
バスに乗られることがなくて
席に座り
バスの一番 ....
デパートに難破船が漂着する
甲板をいじくり
あなたは指の先を切った
立体駐車場から汗など
生活、の匂いがする
立体であることはいつも淋しい
家具売り場でかくれんぼをしている間に
誰 ....
今夜半過ぎ
関東から東海地方にかけて
優しいものが降り積もるでしょう
と、予報士は言った
翌朝
優しいものは降った様子だったけれど
予報どおりに積もってはいなかった
私たちは ....
弟はいつの間にか
僕の背を追い越していた
身長をたずねると
三メートル五十七センチ
と言って悲しそうにうつむく
明日になれば
弟は遠いところに連れて行かれる
多分頭のてっぺんも見えないく ....
採石場の跡地を
ヒトコブラクダが
ゆっくり歩く
かわいそうな気がして
コブをもうひとつ
描き足してあげた
耳の奥を覗くと
夜が明けるところだったので
慌てて帳面を閉じた
肩が外れた
外れた肩を持って闇市に行った
拾ってきた新聞紙を広げ
粗末な店を開き肩を置いた
たくさんの人が前を通り過ぎた
みな急ぎ足だった
しばらくして
職業軍人らしき人が買っていった
....
手の震えがひどい日は良く眠れない
プラスチック製の消臭スプレーを握ると
少し安定して
それでも眠れない時は
若者向けの深夜放送を疲れるまで見て
やっと僅かばかりの睡眠を得る
昼間会いに行っ ....
大好きな果物の
味でもしたのだろうか
モノレールの銀色の車体に
君の歯型がついてる
先ほどまでは
玄関の無い所
スリッパと同じ格好をして
スリッパを並べていた
今は肩を丸出しにしな ....
朝、自転車に侵入された
ちょうど起きようとしているところだった
カロロと卑猥なペダルの音を耳元でさせ
とても恥ずかしかったが
俺は初春のように勃ち
自転車は器用に車輪をたたみ侵入してきたのだ ....
駅前に
都会が落ちていた
命のように
きれいだった
なくさないように
拾って
ポケットにしまった
そして
三年振りの待ち合わせに
僕は現れなかった
帽子の話はひととおり終わり
白い塀が先の方まで続いています
突き当たりの干物工場を右に
道順を教えてくれる指先は節くれだっていて
足元には重いものに潰されたような
カマキリの一部が残っていま ....
小さな馬が一頭草を食んでる
いただきます、も
ごちそうさま、も
一生分言ったのに
まだ何も言い尽くしていない
クイーンズタウンの山の上にある
レストランで食事をした後
近くの牧場で馬 ....
オシロイバナがどこまでも咲く
原っぱの真ん中で
日焼けのしていない細い腕を
嬉しそうに振り回している
いくつになっても夢をあきらめない
ここまできてやっと
あなたは扇風機になれたのだった
母が縄跳びをしている
僕はしゃがんで回数を数えている
あんなに腰が痛い
と言っていたのに
背筋をピンと伸ばして
交差跳び、綾跳び、二重跳び
次々ときれいに跳んでみせる
既に数は百回を超え ....
亀を背負って
懐かしい人の苗字を呼びながら
塩を舐め続ける
水が飲みたい
+
かまきりの新しい
亡骸を
司書は黙って
見ている
+
カンガルーが直立したまま
波音 ....
たくさんの花を枯らした
サボテンやアロエも枯らしたし
ケフィアやカスピ海ヨーグルトも駄目にした
それでも命は大切にしなければならないからと
小さな虫はその形や色が嫌いでも
なるべく殺さず ....
足がつった
魚を釣った
痛さにのたうつ小指が
餌に見えたのか
少なくとも自分の足の小指くらいは
何をも傷つけないと思っていたのに
魚は同じようにのたうってる
口をこじ開け
引っ掛かって ....
危険です
右斜め前方から中学生らしき人たちが三人接近中です
ポストの中に珍しい爆弾が仕掛けられているので危険です
でもそれは本当はポストではなく冷蔵庫なので危険です
危険です 危険です
両開 ....
箪笥の奥には
凪いだ海がしまわれている
微かに潮の匂いが漂っている
妻は夕暮れの淡い光に
静かなシルエットとなり
折り目正しく丁寧に
洗濯物を畳む
その姿は僕らの感傷を代弁する
何 ....
絵本の側で
子供が頭をあわせ
内緒話をしている
二人だけの秘密は
二人だけの秘密のまま
やがていつか忘れられてしまう
僕らは今日必要なことを
ひとつひとつ整理していく
特別なことはない ....
針金を折りたたんでいく、と
先には僕らが息をしている家が見える
目を細めれば海のようなものがあって
僕らはそれを海と呼んだ
その前で君はセーターを編み続け
僕は隣でセーターを食べ続けてい ....
僕は男だから
産む痛みを知らない
同じくらいに
産まない痛みを知らない
痛みなんて知らない
ここは戦地ではないから
僕はあなたではないから
幸せになる方法を知らない
幸せにする ....
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