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「スライディングをして
サッカーボールを蹴った
ナカムラシュンスケ
が映るテレビを見て
小さい両手を頬にあて
幼い兄と妹は
ムンクの顔を並べる 」
と ....
桃色の四角い顔で
素朴にほほえむ
ぱすも君
無数のバスや電車にのりうつり
街から街へ今日も走る
今日は職場の老人ホームで
婆さま達に囲まれて
歌って踊ってすごした ....
朝食を終えたファーストフードを出たら
偶然、夜勤明けで店内から出てきた私服の君が
駐輪場からスクーターに乗り
アイスコーヒーのストローを咥えて
立ち尽くす僕の前を走り去っていった
....
無表情に首を傾げた
自転車の整列する駐輪場の上
線路に吊り下がる
モノレールは監獄の面影で走る
昨日の重たい疲れを残し
眠りながら吊革にぶら下がる人々
....
独り暮らしの古家から
週に一度
玄関から門前に出て
杖を手にワゴン車を待つ
「おはようございます」
ドアが開いて下りてくる
孫のような青年の
腕につかまりながら
車 ....
もう会うこともない
君がくれたボールペンだけが
この手元にある
君は自らが去る前に
どんな思いを顔に浮かべ
商品棚から
このペンを手にしたのだろう
これからの日々を ....
もしかしたら
病気で半年前に退社した
若奥さんのUさんは
日々ずっこけるこの僕を
きらいじゃなかったかも?と
今さら思う
僕は特別Uさんに
ホの字だったわけでもないが
....
川沿いの道を
からんころんと下駄鳴らし
着物姿で{ルビ闊歩=かっぽ}する
5才の姪のかほちゃん
ほどけた帯紐に
つまづかないよう
後ろから追いかけて
地面に垂れた紐を持 ....
人々の行き交う夕暮れの通りに
古びた本が
不思議と誰にも蹴飛ばされず
墓石のように立っていた
蹴飛ばされないのではなく
本のからだが透けているのだ
聴いている
時 ....
傷口をいじれば
いつまでたっても治らない
そう知りながら
この手は気づくと触れている
もう忘れていたあの日の傷跡を
いじり過ぎた浅黒い影が
遠い過去の空白に
うっすら ....
昨日の僕はくたびれて
仕事の後の休憩室で熟睡し
帰りのバスを待つ
怠け者の朝
ベンチに腰掛け
一冊の本を開く
昔々、見知らぬ地へ流された
無一文の身で額に汗して畑を耕 ....
凡庸なひとりの人の内側に
身を隠す「豆粒の人」は
いつも光を帯びている
脳裏に取り付けられた
あるスイッチが押され
心の宇宙に指令は下り
凡庸なひとりの人の内から
....
田舎の駅の階段を
せーらー服の少女は軽やかに上り
ひらひたと舞うすかーとのふくらみに
地上と逆さの重力が働いて
自ずと顎が上がってく
まったくいくつになっても
男って奴ぁい ....
「卵」という文字が
何故か哀しく歪んだ
誰かの顔に見える
「卵」という文字が
何故か背中合わせに俯く
ふたりの人に見える
「卵」という文字が
何故かずっと倒れずに ....
昨夜は母ちゃんが
皿洗いを終えた後
ストレスから来る腹痛で
じっと座り込んでいた
今夜は親父が
夜勤警備で老体に鞭打ち
今頃懐中電灯を手に
役所の廊下を照らしてる
....
0時過ぎの残業を終えた
更衣室のロッカーに
凭れて座る栄養士
青白い顔と体をつらぬいて
うっすらと立つ
ひとすじの葱
「ひでぶ!あべし!あちゃちゃちゃちゃあ!」
歌舞伎町のライブハウスで
登場した幕間詩人の
雄叫びを聞いた翌日
職場への道を歩いていると
古びた赤いポストの下に
「北斗の ....
赤信号になったので
立ち止まり
振り返って戻った壁に
額をあてる
腐った蜜柑になっていた
昨日の自分の嘆きを
冷えた壁は吸いこんで
振り向くと
信号は青になり ....
女の墓は
只無言に土を塞ぎ
幻の日々はすでに
墓石の下に葬られ
男は墓に
只うな垂れて
生きた屍の心の闇に
灰の雪は降り積もり
雲の流れる
空から落ちてくる ....
車に跳ねられ
長時間の手術を終えた後
息子が横たわるベッドの傍らで
涙を堪えながら母は
布団の脇にこぼれた手を
握りしめる
消灯時間を過ぎた夜更けにも
闘いの後の休息に瞳 ....
今日も私は甲板に立ち
{ルビ何処=いずこ}の空か知らぬまま
一面の海を眺める旅人
手にした杯から
見下ろす海のさざめきへ
ひとすじの{ルビ葡萄=ぶどう}酒 ....
駅前の信号待ちで
電柱に取り付けられた
盲人用信号
杖を持つ白抜きの人の絵
その下の赤いボタンを
無性に押したくなる
{引用=目を開いても盲目 ....
六月の空から降りしきる
無数の梅雨のうたごえに
色づいてゆく青の紫陽花
八月の日照りに
干乾びた姿晒す
{ルビ木乃伊=みいら}の紫陽花
「生 ....
( 今宵も高田馬場に
( {ルビ詩=うた}を奏でる風が吹く・・・
鉄腕アトムのメロディーが
少年の夢のように
駅のホームに流れると
何処か遠くの山々で
満開の桜の幹に隠 ....
春雨の降る午後
私は一人傘を差し
無数の蕾が開き始める
桜並木の道を往く
三っつ目の信号を曲がり
学校に沿う坂を下ると
傘を差す
君の母が立っており
喪服の私は頭を ....
「自分をよく見てほしい」
というふうな
ふんぞり返ったこころ
「自分は駄目な奴だ・・・」
というふうな
しょげかえったこころ
ふたりの自分の間で
あるがまんまに立っ ....
休日の昼過ぎ
先月から通い始めた
自動車学校へゆくと
校内のすべての車は停車して
教習コースの道に並ぶ
紺ブレザーの教官たちが
にこやかにキャッチボールをしていた
長 ....
{引用=わたしはすでに
わたしそのもの}
自ら望み
生まれてきたわけでもなく
自ら選んだ
両親と国と時代でもなく
窓辺に置かれた鉢の
枝葉を広げた小木のように ....
喫茶店の席を立ち
ふと足元を見下ろす
椅子と椅子の隙間の床に
鈍くひかる百円玉が
恨めしそうにぼくを見ていた
世界はいつも
ぼくになにかを
云っている
....
はらを空かせたわたしに
どこか似ている
ひもじい声で細々となく
小さい虫
草の茂みから
一匹
ぴょんと跳び出した
こんなわたしでも
まだ跳べるような
気がした ....
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