真夏の渓谷の薄暗い木陰で
川音を聞きながら
ひっそり息をしていた
ひとりといっぴき
濡れた岩のうえ
つんとまっすぐに伸びた胴
行儀よく揃えて閉じた翅
その黒曜石の輝き
日の当た ....
僕は十二番目の牢舎にゐる
僕は二零三と呼ばれる
僕は自分の名前を忘れつつある
僕は粗悪な食事に馴れつつある
君の庭の卯の花は
今頃はもう満開だらうか
此処にゐると季節が判ら ....
白いシーツにくるまって
裸の足を少しのぞかせながら
「帰るところがないのぉ」って
まるでローティーンの家出少女みたいな
口調でさ
そう言ってみな
きみの横に滑りこんだぼくは
不器用に ....
学校の坂を
手をつないで駆け降りると
二人は、体ごと海になった。
作務衣のまま飛び込んで重く
泳ぎ疲れた僧侶は
制服を脱いで藍色の水着になった少女を
波打ち際に横たえる
少女 ....
時計が遅れたり
進んだりするのを気にする人は
何よりも時間の大切さを
知っている人です
けれど
時計には時計のペースがあることを
忘れないでほしい
など
ホームの水飲み場で
あな ....
ある時ダヴィンチが
金魚鉢を眺めていると
金魚がウインクしたので
「魔が差したんだろう」
と思った
またある時ダヴィンチが
散歩をしていると
電信柱がおじぎをしたので
「人 ....
地に埋まった男は
逆さの姿勢で固まっている
そのまま足を伸ばし続けて
彼は、いつしか
木、と呼ばれるようになった。
チョコリットも積んだし
燃料も じゅうぶんだ
さて。
火星へ行くことにしたよ
彼女があんまりうるさく
ぼくをがんじがらめにするから
もう、ぼくは
火星ならタコ(みたい ....
耳たぶが
熱い
空調装置にたしなめられた
浅いシーツのような室内の夜には
昼間に溜め入れた太陽の
滴りそうに赤い耳たぶ一滴で
ベッドが太陽の海になってしまうのを
防ぐ ....
あなたは、
簡素な手順でわたしの胸倉を開き
匂い立つ土足
こればっかりは慣れないものです
その度に鮮やかに毟られる
あなたと遭難したい
篭って
香しき動揺が眼に見える位置で
わ ....
寝つけずに気がつけば
枕元に私の子供が立っていた
一度だけ会えた時あの子は手も足もバラバラの血まみれで
顔なんてもちろんわからなかったけれど
不思議とあの子だ、と感じた
嗚呼、女の子だったの ....
乱視の交差点が光にまみれている
穴に落ちてしまわぬよう
慎重に渡る
いつか
二人で広げた新しい傘の下
けれど赤と青は紫にはならず
個体であることのかなしみを知った
ほ ....
批評だ批評だ批評が必要だとネットで吠え続けて、おそらく数年になる。私自身は、地方同人詩誌での合評会や蘭の会内部でのわずかな批評と、詩集そのものに対するいくつかの批評をのぞき、自分の作品に長文の批評をネ ....
彼女と喧嘩して
いい加減にしろ
と怒鳴るつもりが
いい加減にすれ
と言ってしまった
こらえたがやっぱだめで
吹き出してしまった僕の
少し後に吹き出した君
ふたりで涙を流して ....
今の日本において「詩人」は既に職業として成立しないと言っても過言ではない。職業として成立しないとは言い換えれば需要がないということだ。
私はかつて詩人が果たしていた役割を(エモーションの供給)今 ....
いま、右手首がひじょーに痛い。うちの飼い猫の血膿をふきとろうとしたら、ズタズタに深くひっかかれた。場所が場所だし、猫の爪は鋭くてカミソリみたいなものだから、自分で見てもリスカの傷に見える。おもしろがっ ....
決まって
微熱がでるのは
実らなかった果実を葬る準備の
涙の熱さ
下腹部の奥深く
あなたのオスは死んでいて
私のメスの両腕が
それでも離すまいと
必死に掴む時の
痛み
....
宇宙犬ライカは
本当は「クドリャフカ」という名前で
ロシアの犬だからなんとなく
大きな犬なんか想像しちゃいそうだけど
彼女が実は体重5キロくらいのきわめて小さい犬だったのは
(言い忘れてた ....
今日は早朝バイトがないけれどまだ起きている。テレビではもうイラクの三人の人質について報道しているのだろうか、いや、まだ報道しているんだろうか。テレビを見る気がしないのでわからない。わからないけどたぶん ....
地球の一部を救う気たっぷりの人が
地球の一部を救う気たっぷりの人と
地球の一部でこんぐらがっているので
地球の一部は大混乱なのだ
地球の一部の とある国の一室で
男は焼酎のお湯割りに梅干 ....
一人の命は地球よりも重いのです
ましてやそれが三つもあるのに
地球は一個しかありませんよ
命だけは助けてくださいと
あやまりなさい
お願いなさい
土下座もなさい
裸踊りもなさい
....
花に水をあげている君を見て
ああ、じょうろのまま一生を終わるのも悪くないな
と思ったのは、もう
うつらうつら
していたからなんだろう
背中の取っ手から
ひんやりとした手の温もり ....
気が遠くなるほど
恋をしてしまったとき
いや
言い換えよう
特定の
誰かに
欲情してしまったとき
わざと
自分を
隠す
何処にも
いないかのように
いないところから
....
使っていない電話器が時々鳴る
コードは何処にも差してない
その受話器が持っていた番号は
もう何処にもないんだよ
遠い昔つながっていた
あなたの電話番号も
もう何処にもないんだよ
あな ....
指を折って下さいと
私は尋ねる
憤懣やるかたなし
といった風情で
彼は
動かぬ指を折る
ことばほど
指は曲らず
ただ
夕暮れが訪れる
もくれんの花びらの
やがて
春 ....
体温を逃がさないように
君は丸くなって僕の隣りで
いつものように
まだ寝息を立てている
まるで小さな生き物が
昨日も生き抜きましたと
陽光に告げるように
寒い、寒い、いつもの朝
....
白糸さんの「言葉の持つしっぽ(あるいは亡霊)について」http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=9435&from=menu_d.php?start=0を読ん ....
あら、困ったわ
が口癖の君が困った様子なんて
今まで見たことがない
あら、困ったわ
なんて言いながらも
トントントンッとまな板の上で大根を切ったり
ザッピングをし続けた挙句の果ては ....
確信犯という言葉の意味が、気になって気になってしかたないので、辞書をひいてみた。
確信-犯【かくしん-はん】
自己の信念に基づき正当な行為と信じて行う犯罪。
[特に、宗教的・政治的な義務感・ ....
開け放たれた音楽室の窓から
合唱部員たちの歌声が聞こえる
放課後、行き場の無い僕らは
校庭の隅にある鉄棒に片足をかけたままぶら下がり
いっせいの、で誰が好きかうちあけると
やはり同じ子が ....
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