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 「茶トラ猫、あの日以来…来ないわねぇ。」

 近江屋、厨の上部の隅
 かけてあった梯子を床から上げる おゆうは独りごちる

 そして 三畳の間に敷かれる煎餅布団に座って
 脇に置かれた小 ....
長い信号に引っ掛かった
本当に長くて
五十メートルくらいはあった
長いものには巻かれろ
という言葉があるけれど
何かを巻くほどの
柔軟性はなさそうだし
それならばいっそのこと
 ....
 空に 冴える下弦の月

 雑穀問屋の屋敷の裏庭
 縁側の沓脱石の傍で
 浅い眠りにつく ハチ

 ふと 嗅ぎなれない匂い
 目を覚まし 見廻すと縁の下に
 小さく動く影一つ
 「誰 ....
 空に冴える下弦の月 
 ポツン と川ぼり佇めば
 水面にこぼれる 舟宿灯り

 さっき 別れてきたばかりの
 タマの泣き顔
 浮かんで揺らぎ
 男泣きする トラ

 ガラリッ
  ....
 「近頃、米や油が大変高くなって皆困っているよのお…。」
 
 「まこと、この物価高で。俺達よりイワシの方が健康状態良いのでは
  ないかな。」
 あぐらをかく膝に丸くなっているイワシへ 
 ....
今朝の音楽は短調ではなく長調が似合った
何時もの苦い珈琲が何故か甘く
正確なメトロノームが響きあって
ぼくたちに奇跡の扉は開いた

あまりにも透明な
薄く虹色に染まったシャボン玉

誰 ....
 下弦の月が冴え
 よく冷える晩のこと

 「おい、炬燵とは豪勢じゃないか!」

 浪人が、長屋の玄関の戸を開けて
 迎え入れた友だちは羨ましそうに言う
 煮炊きする へっついの傍
  ....
冨の神を崇める教義では、
あなたの身体と魂は誰よりも清く
その清い身体のために、
毎朝オレンジジュースを飲む

また、あなたの美貌のために
幼い夢を祭壇で屠り、鮮血を啜る

既に世界は ....
 これは季節感のない冷蔵庫
   一定の地位を占めるドライフルーツは罪なのであります

森の中で目覚めたまま立ちつくす僕のハムストリング
                          ....
それはこれのパクリやんて続けたら
いつのまにか独り

パクリでもすがりつきたい
みかづきのはじ

新月になれば落下する

不時着し
さがしもとめた
蜃気楼から
かきならせさけべ
 ....
郊外の夜
白い途に独り居て、
海辺の唸る光景
ふと浮かび、

 耀く光点

夜の青みに浮き上がり
白い途の先に拡がりゆく

〈だいじょうぶ、大丈夫だから進みなさい〉

澄み渡る ....
 「あら、この通りじゃ見かけない顔ですね。」

 近江屋の厨の隅
 水桶や たらいが置かれる陰にしゃがむ
 おきぬの頭上から覗きこむ おゆう
 
 「そうだよね。今晩の連れは、ちょいと痩せ ....
 雑穀問屋の土塀の瓦に寄り添う 
 何やら神妙な顔つきの
 ふたり
 
 「あんたって、かわいそうなのね…。」
 目尻がスッと伸びて色気のある
 白猫 タマ

 「そうでもないさ。君に ....
 「俺は三両の、ねこだ。」

 河原の橋の下
 腹空かせてぶっ倒れている
 トラは 小声で
 それを自分に言うとのっそり
 起き上がる

 「また、その話か。耳にタコだぜ。」
 側で ....
 「どう、あんたも。旦那様が飲んだ出涸らしで、お茶入れてきたわよ。」

 女中部屋の粗末な座卓に
 不似合いな 黒砂糖饅頭が五つも
 「どうしたの?コレっ。」
 目を丸くする 飯炊きおりんへ ....
 河原の橋の下で
 目を廻してぶっ倒れている
 トラ

 「どうしたんだ!お前。気分悪いのか?」

 そばへ寄って来る
 ホームレス仲間たち
 「そういえば、ここ数日…奥さん見掛けんな ....
 ある日
 河原の橋の下
 まだ うす暗いうちに

 藁蓆で作った擦り切れた叺を寝床にして 
 潜り込んで居るトラが
 目を覚ますと
 「うわっ、大変な雪だ!」

 彼の脇腹に頭を埋 ....
抹消され
ては、
現れ 現れ
ては、
抹消され

異様な謎 謎の異様
死を前にして
終止符打つこと無く
絶えず律動し続け

 階段を昇る
 宙空に浮き
 枯れ草散らばる
  ....
 その人の
 ぶ厚い唇から飛び出した一言は
 熱っぽかった

 「あなた、でしたかっ!」

 (は?…。)
 パリッとしたスーツ姿で
 母の仏前に座る中年男性とは
 全くの初対面
 ....
姿見池には
何も映らない 別名は影見池

梅と詩文を愛惜したひとが
西へ行く路
水鏡を覗き
月に宛てて歌を呟いた

古代の風景は
異国のお伽話よりもわからない

ありもしない罪に ....
幼いとき
旧電車通り と大人たちが呼ぶ
ながい一本道を渡り
手習いを教わった

空も海もしらない
蛍光灯の平板な光がまぶしい

美しくも醜くもない
手本を右に
半紙をよごしてばかり ....
古書店に入ると
老夫婦が内田百閒の日記について
話を交わしていた

百閒先生は
なして小倉については何も
書いちょらんのかねえ と

うねる波の発音に
懐かしい歌謡を聞き分けた

 ....
きみに逢うために
踏んだ路を歩きなおすのは

 唯是西行
 不左遷

と かの詩神ほどの気概や嘆きを抱いていた訳でも
まして花の匂いに誘われたからでも
ない

梅が枝を
敵意のす ....
「金じゃ買えない物がある 26歳」を
「金は出すから美味い物を食わせろ 41歳」が惨殺し
「焼き過ぎないレア 年齢不詳」を新たなパートナーとして要望

腕が悪い奴は焼き過ぎてしまうが・・・
 ....
午後の水泳の後のような
細く眩しい筆跡
液状のカーテンでは
不都合なことが多々あり
懸案となっていた模様替えの
おさらいをしておいた

燃えるごみの日の
温かな坂道の傾きを指で ....
わかったよ
本当はもうとっくに思い出してるよ
差し出された干し柿はとても甘く
 
 


ギルー ギルー
僕はもう誰にも呼ばれないよ
アンダクェーとキジムナーは山原に消えたよ
 ....
心は紙風船みたいだから
傷つけられないように
無口に今日も僕は
気取ってないふりして静かに
微笑んじゃったりして会釈する

心の空気は換気しないと腐ってしまう
どろどろで腐敗臭
換気の ....
投函された手紙のような
つつましい
アメージンググレイスは
手紙それ自身が読まれるまで封をされ
言葉ありき、a、α
胎の中でなくしたまま産まれ
ここが家だと、わかる
教えてくれたもの、人 ....
 イノチガ フト
 オモタクテ
 窓ヲ アケルト

 ヒトツ フタツ ミッツ
 カゾエテミタラ
 ココロガ カルクナッタ

 アカイノ 
 ホントニ アカイノ
 イマニ コガラシガ ....
試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴を ....
soft_machineさんの自由詩おすすめリスト(1639)
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