セミの抜け殻を
たくさん集めて帰った
何となく
母にほめてもらえる気がした
母はパズルのピースが足りない
と探していた
父は受話器を握り
そこをなんとかお願いします
そう繰り返 ....
ちいさな掌を
ひとつ結んでは覚えてゆく指あそび
ほんとうなんて要らない
と言い聞かせながら
それは未だ新しい
老いさらばえた両腕は
調和したスープと
子守歌で満たされる
動かな ....
君の白い歯で
齧られたカンパーニュから
胡桃がぽろりと落ちた
君はそれをつまんで
口に放り込んだ
「頭が良くなるんだって。」
胡桃と全粒粉が焼け
キッチンに浮かんだ芳ばしさに
....
そう、遠くはないから。
大丈夫。
光の淵へ遊びに行こう。
夏になると
綿毛の灰色と
安曇川の水と、
母さんのトルコ土産の
キーホルダーに付いた
じゃらじゃらした青い目玉の
....
なぁ
青春とは短く儚いものだったな
桜の色なんて
ああ
暑いな。ここは少し
木々の葉がさやぐような声が
ざわめかしい、朱夏
風の声なんて
ああだけど
底無しに ....
コロイドを写し撮った
君は
クリアトーンが歪む世界で
情景美ばかりを歌う
コロイドを写し撮った
咲くコロイド、還っていく、コロイド
幾つも落ちていく{ルビ双子=そうし}の星
....
人魚姫に会いに行きました
淀んだ空の下
冷たい雪を両手に伴い
そういえば
冷たい風も吹いていました
最寄りの駅から1キ ....
風の音とともに影の色は消え去り、
晴れた空の上を飛行機の音が鳴り響く、
口癖のように聴こえる夢の楽園、
抽象画の懐かしい響き、
おお つまらないむかしの戯言、
残骸はやかましく騒ぎ立て、
....
ロシータっていうおばあちゃんは
サンホアンで一番年取ってて
猫にやさしくて
工房の隣の彼女の家には
いつも猫がたくさんいて
使い物にならないボートが
とまっている
....
風に舞いあがる落ち葉
その向う先
俺の心の深いところには
一人で向う旅路の果てが
虚ろげに映る
忘れることなどないけれど
多くの過ちは風化して
貨物列車で運ばれていっ ....
僕は明日引越しをする
仕事上の都合で
電車にて
片道わずか一時間半の距離
大げさなもんじゃない
なのに
こんなにも心が寂しいのはなぜだろう
それはきっと
あの少年に会え ....
大きな本屋の片隅で
店員にも忘れられてしまった本が一冊
置かれた場所が奥にあるのか
興味を惹かない題名なのか
本に聞いてもわからない
言葉がこんなに近くとあるというのに
誰もが前を通り ....
木の葉が落ちるは
時の習わし。
春は雨に打たれ、
夏は陽に焼かれ、 ....
夜寝る前に読書していると
開いた本のなかから
うっすらと光を帯びた手があらわれ
わたしに差し出されていた
その手を握ると
不思議な想いが心に流れ
明日に怯えるわたしの影は ....
今日の夕食は久しぶりに豪勢だった
メニューはハーブ鳥の焼き物
チンゲンサイのソテー
ポタージュ
白ご飯の四品だった
この前実家から荷物が届き、それも以前詩にし ....
教室にあった1つの星が
逃げるように走り去った
彼女は多くの願いの的だった
「どうか1日も早く 消えてくれますように」
夜がくると僕は足早に家路を辿り
小さな部屋で息を潜める
真っ黒な ....
戦後まもなくだろう、
捨てられたガスマスクが
赤黒い錆を纏って
川の中で佇んでいる
傍らに
まだ新しい
マイルドセブンが沈む
ささくれのある人差し指で
水面に
彼の鼻先に
つぃ、と ....
もし貴方が寂しかったら
笑ってごらん
少し周りが明るくなるから
そして泣いてごらん
空が笑っているから
がむしゃらに進んで
行き場が見えなくても
道は必ず開ける
自分の道を見つける ....
誰も通らない道端の
枯れ葉が揺れるその場所は
風が自由に向きを変え
空へと戻る交差点
風と風とが巡り会い
互いの全てを確かめて
冷たい空気に温もり添えて
どこからともなく寒いねと ....
空にはいつも夢があった
憧れが青くきらめき
愛さえも赤く燃えていた
だけどこんな曇り日には
未来が見えなくて
泣き虫の君の瞳から
大粒の雨が降る
悲しまないで 君だけは
決して ....
ルーペを通るまっすぐに屈折した彼の意識。まなざし。
はん。ぼくはその焦点にもぐりこむ。
なんだよ。目が合う。彼のおおきくなった目、歪んで。
ぼくは彼が、今日の彼がいやだった。気持ちが悪い。
夕 ....
二匹の子猫を喰ったのさ
生まれたての赤ちゃんさ
どうしてだかは分からない
分からないけど喰っちまった
婆さんネコが言っていた
黒猫を食べると幸せになれるって
確か黒猫だった ....
囁く水の招きに
おとなしくなってゆく
たのしい夢をみて
かなしい夢もみて
ちっとも貧しくならないから
誰にも聞こえないように小さな声で
誰にも聞かれないように大きな声で
蜂蜜みた ....
ショパンの旋律に震えつつ
掌を変拍子で打ち鳴らそう
湖で一番美しい白鳥なんかになるまい
烏たることに自足しよう
ぶざまに群れ
餌を漁り太り気味となり
ふてぶてしく騒ごう
そこから立ち ....
静かな
白い波打ち際の日
僕の息が風
少年は貝殻を探す
波と
鼓動が聞こえる
入道雲
笑いかけた日が
空を駆け抜ける
茜色の落ち葉を
歩道に叩きつけた日も
僕の息は枯葉を ....
雨の中を
迷子の少年が傘を差さずに立っていた
誰かがそばにあったタオルを
子どもに渡してあげた
人のタオルを勝手に使わないで!
持ち主の声がその場に響く
頭を拭き終えていない少年 ....
何事もなかった
そんな天気
昨夜あんなにも悲しくて
泣き叫んでいたのに
変わったことといえば
痛いほどに腫れている目
それくらい
雨でも降っていれば
もう少 ....
僕の黒いノートの表紙に
ときどき
窓が出来ていることがある
その向こうで
君のかなしみが
淡い落下をいつまでもつづけている
(背景はいつも夏の
{ルビ誰彼時=たそがれどき}か
{ル ....
なんとなく身体が重い
洗濯機を回したはいいが
この雨で干すことができやしない
眠りの公園を
何度も行き来した後に
熱いブラックコーヒーを口に運び
ままならぬ夕方の ....
落第してゆく大人たちを
進級してゆく子どもたちが
通り過ぎてゆく
落第する大人たちは
進級することは過去にしかないと
思いながら
冷えた体で下を向いて歩いてゆく
丸まった背中が小さく ....
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