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数十キロの彼方から
この家の扉に向かって
一台の軽トラックが走ってくるのを
わたしの右の瞳が
静かに予感している
その車は
晴れた陽を窓に映 ....
最後だから笑った
夏の日のあなた
帽子をとって
強すぎる陽差しと
埃を纏う風を浴びて
長い髪をそっと押さえ
頬をそめて笑った
誰よりも ....
正午ぐらいに
この公園の上空に
赤い飛行機がやってきて
幾つかの小石を落としてゆくのを
その妊婦はじっと待っている
背板にコカコーラのロゴが
描かれたベ ....
永い夜の後に
束の間の朝が来て
君はシャワーを浴びている
水の弾けるその音だけを僕は
窓辺に立って、じっと聞いている
冬の朝陽に目を細め
少 ....
橋の下の叢に
ひっそりと落ちていた
真珠色の受話器と
捩れてしまった一本のコード
その先は川に入っていて
その更に先は
わからない
暮れ時、水面に ....
私があなたを好きになった日、
私の心は赤かった
闇夜に灯った明るい火の輪
一頭のライオンが駆けてきて
ひと跳びにくぐり抜けていった
その先は草原になっていて
....
きみの腹を
綺麗な
正方形にくりぬいて
そこを通して僕は
桜吹雪が舞うのを眺める
蒼い春にも
暗い冬にも
きみの正方形から
桜吹雪が舞うのを ....
透明な空に
透明な取っ手
空を開けると草原があった
草原を開けると発電所があった
発電所を開けると僕があった
僕を開けると藍色があった
藍色 ....
日曜日、
くさかんむりの広がる野原で
ピクニックをする
あなたは適当なところに
持ってきたもんがまえを敷いて
ここに座りましょうという
おべんとうよ、と
....
1.詩人
一人の詩人は
自らの詩をオルゴールに閉まった
そして時々、宝石が
散りばめられた蓋を開ける
身分証明が必要なときや
金に困ったとき
....
なんだかなあ
が、
白い布にしみて
たやすく
夜
かなわんなあ
って、
放りなげたこと
ひるがえって
雨
....
くちびるを貸してください
そらの絵を描いてあげる
そらは
すべての言葉がひびくところ
心臓を貸してください
そらの絵を描いてあげる
そらは
....
もしもし、
春になって
やさしい色の花で
世界は染まっていったよ
せつないときには泣いてもいいかい
もしもし、
なんとなく今朝
中川家の漫才を ....
かさ重なった
野良犬のむくろに抱かれ、
牛乳を飲んだ。
嘘をつく唇は
ふる震えてる、
蛋白質。
汗が乾いたあとの
つめたさ ....
八月の市営プールが君のノスタルジア。
脚立みたいな正体不明の監視装置に鎮座する五十格好、
主婦を悩ます排水溝のぬめりに近似したプールサイド、
二十五メートルを往復している小型 ....
夜、汽笛の音が
遠くから伸びてきて
それが合図だった
(ぼう ぼう
(ぼう ぼう……
鳴り終えた音楽の残滓が
静止した街に滴る
も ....
風吹けば
薄紅色の水玉模様
ありがとう
もう何も考えなくて済む
閉じこめられたら
二度と目覚められなくなる
それがいい
さ ....
ぼく みつめている きみを
きみ みつめられている ぼくに
いつまでたってもどこまでいっても
やまびこしない ひとみのやりとり
言葉は 言葉じゃない
....