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橙色に照らされた木造二階建てのアパート
蹴飛ばせば簡単に壊れてしまいそうな垣根から
紅色の白粉花がその艶やかな顔を出す
やがて来る闇に飲み込まれてしまう前に
黒くて固い種子をてのひらに ....
夏の空が広く見えるのは
余計なものが流されているからだろう
小学生の頃の一番の友だちは
国語の教科書と学級文庫と図書室の空気
頁をめくったときの薄っぺらい音と
綺麗に並ぶ印刷の文字が ....
恋人同士で祇園祭に行くと破局するんだって
昔からそんな噂がまことしやかに流れていた
きみからの誘いを断らなかったのは
おろしたての浴衣に袖を通したかった気持ち半分
別れたらそこまでの縁 ....
少しだけ冷たいシャワーを浴びて
乾燥したタオルで頭を拭く
拭いきれない残り水はしずくになり
首筋を伝い背骨を沿って落下してゆく
つつ、つう、つう
風ひとつないこんな夜には
....
忘れかけている遠い記憶のあの子
白いワンピースがお気に入りだった
生まれつき色素が薄かったようで
肌は陶器のようにつるりと白く
髪は太陽に透けるような茶色だった
大人は口をそろえて
....
大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある
転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
....
遠くばかりを探していたら
いつの間にか目の前に立っていた
思わず向けてしまった人差し指
音楽の授業でピアノのテスト
弾けないわたしは放課後まで練習
ミの位置にはいつも中指
教えてく ....
夏祭りですくった金魚は
10年以上経った今でも元気で
水槽の中を気ままに揺らぎ
ときどき思い出したように
視線を合わせてくる
特に感情は見受けられない
小さな家の小さな水中で泳ぐお ....