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あの高い木のてっぺんにいるのは
多分ぼくだ
ぼくの知らないぼくだ
忘れていたのかもしれない
ぼくがすっかり忘れていたぼくなのだ
だから懐かしい
ぼくは手を振った
だがそいつは
....
水になろうとするように
魚が魚のかたちで泳いでいる
そんな潮溜まりでは
生きものの群れがまばゆいという
空を仰ぐひとは
吐息ほどの
祈りの水を浮力にかえようとする
浮いては沈む
....
ジャンプして
空の高さをめざしていた
虫たちの翅が透明になった
さみしいね
ぼくたちの夏が行ってしまうね
とうとう本も読まず
砂だらけの栞を挿んだままで
ぼくたちはまた
....
夏は
山がすこし高くなる
祖父は麦藁帽子をとって頭をかいた
わしには何もないきに
あん山ば
おまえにやっとよ
そんな話を彼女にしたら
彼女の耳の中には海があると言った
....
追うように
追われるように
獣たちが駆け抜けていった
土手の草むら
ことし祖母は
言葉をいっぱい失ったので
体も半分になってしまったと言う
秋になって
いちめん ....
おとうさんは帽子と靴だけになって
夏はかなしいですね
おかあさん
虫は人になれないけれど
人は虫になれる
と母は言う
両手と両足を地べたにつける
そうやって虫の産声に耳をすま ....
5本の指を
2本にしたり3本にしたり
左手の指だけを動かして
おかあさんの言葉は難解ですね
2本はふたり
3本は3人
ではなくて
子どもが3人
親と子ども
でもなくて
....