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風は言葉を求めていた
無言で動き続ける自分に
自分の存在を
何かにあるいは誰かに
伝えたかった
街は重厚な壁に遮られ
跳ね返されるか
止められるかで
風の居場所はなかった
風は森 ....
森の中で
がばっと大きな口が開いていた
大きな口は
緑色の歯をいつも見せていた
晴れた青い空の中で
流れてきた白い雲を
一気に飲み込んだ
歯が揺れている
近くまで寄ってゆくと
自分が ....
鉄は錆びていた
光沢は外に発しない
錆びきっていた
鉄は昔を思い出した
あの銀色に輝いていた自分を
当然だと信じていた
今はぼろぼろな茶色の体が
悲しかった
雨に濡れて
少しずつ ....
父の傘は
とても大きかった
雨が強く降ろうとも
何の心配もいらなかった
父はその傘を
若い時に買ってから
ずっと使い続けていた
何度か壊れかけたが
それでも修理して使った
雨 ....
家族で豪華な料理を
食べに行った
お父さんとお母さんは
とても満足そうだったけど
ぼくは
おしゃべりしながら
家族みんなで分担して作った
カレーライスの方が
美味しいと思った
家 ....
遠い昔の夏の夜
通りすがりに見た花火
ちりちりと音を立てながら花が咲く
光を見つめているうちに
いつしか音が消えてゆく
赤や緑の光だけが
思い出になってゆく
遠い昔の夏の夜
二人で ....
ある日からだった
鳥たちがいっせいに地下を飛ぶようになった
空を捨てて森を捨てて
鳥たちは土の中へと潜っていった
地上には鳥の姿は見られなくなった
人間は鳥の居場所を探したが
かなり深くま ....
その痩せ細ったライオンは本が好きだった
本であればなんでもよかったのだが
ライオンは特に哲学に没頭した
一つの言葉にあれやこれやと
考えることが好きだった
三度の肉よりも本を優先していた
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