彼は ニンジンだが
私が すりおろした
まな板のすみに ニンジンのおろし
三角コーナーの裏に 皮
ステンレスにはりついたオレンジのひし形は
彼が
私に言いたかった唯一のことなので
....
とどかない。とどかない。きっととどかない。
伝える。行く。
あの扉は開くか。
彩られた日々へ、終わりを。
苦しみはいつか。
悲しみはここへ。
喜びは遠い日へ。
死するときが怖 ....
最初の舞台は私の家の玄関先
(もう三十年も前に植えたという)
ダイダイの木の濃緑の葉に
まんまるな卵が産み付けられたのは
風薫る五月の午後
うるる。るる。うるる。
あったかい。
....
湯船にゆっくり脚をのばす
私は顔をお湯から半分だけ出して
鼻息で作る波紋を楽しむ
沈黙
あなたが入ってくるとき
私は寝たふりをしている
湯かさが増して
鼻で息ができなくなったとき
はじ ....
だからクーピー
暗室に三日月を浮かべる夢なんだそうです
地の色は黒です 真ん中に黄色と白
アルバムをひっくり返して
深呼吸
サル顔の赤ん坊の名前を呼んでください
逃げません
塗り ....
レコードは回っていますか
私の溝に
あなたの体温時計
あなたの体温度計
もうすぐ秒読みです
準備はいいですか
ゴオ
ヨン
サン
ニー
イチ
←
無重力の地上に
今や大音量音楽 ....
お姉ちゃんが
こまぎれになって
道路に落ちていた
わたし
ひきずる
お姉ちゃんの右腕
ずるずるとひきずって
「はやく帰らなくちゃ」
アスファルトに
右腕が描いた
赤 ....
兎の好きな彼女のために
ペットショップで衝動買いをした
白地に茶色で小さくてかわいくて
その頃僕たちは同棲をしていて
彼女はその兎をピーターと名付けた
2DKのアパートの寝室だっ ....
脊椎小脳変性症による両上肢機能の軽度障害 6級
両下肢機能の著しい障害 2級
心内膜床欠損症による心臓機能障害 1級
脳性麻痺による日常動作が殆ど不可能な両下肢機能障害、歩行が不 ....
おもちゃを買ってあげるから、
駄々をこねてはいけないわ。
お気に入りのドレスを汚されては堪らないの!
ほら、わくわくするでしょう。
夜中に食べるプリンのように。
ひとつ聞きたいことが ....
恋という悪意の友達に勝った
女子高生はビデオの中や
カラオケでパンツ脱いだり
つばを吐いたりしながら
勝ったの。
恋っていう悪意に勝ったの。
微笑んで
最高の笑顔で
炭酸水を飲めば ....
君とアリス・ドライブの途中
蒼い森の入り口で白い車の息があがった。
僕は
車のボンネットを開けてしたたかに朝の蒸気を浴びる
ナビ・シートでは彼女のソウルが
コールタールの音をたてているんだろ ....
神の乳ちぎりを思いついた俺の天才が怖い
さっそく準備のために買出しに向かう
街は色とりどりの銃弾で溢れ、幸せそうだ
もうすぐ、本当にもう、すぐだ。俺も幸せになる
神の乳ちぎりで俺は幸せ ....
おそろしげなる{ルビ杣人=そまびと}の
十人かかりて動かせぬ
切り倒されし杉ありき
杉と契りしむすめごが
赤き襷をきりと締め
えいやと綱を引きやれば
やれかなしやと大杉は
するりするりと ....
何度ささやいたかわからない
あいしている
のうち
一度だけは
「哀している」
と言ったのだ
きみは気づかないが
かなしもまた愛し
あいしもまた哀し
きみが肩に頭をのせているあ ....
三丁目の角を曲がったところでふと
君の匂いを感じたとき
なんてことないと思っていたのに
電子レンジに卵を入れて
しばらく眺めてから取り出し
破裂するかどうかを少しだけ考える
あれと似て ....
お久しぶりと
声をかけると
愛人は
この愛人はとてもよくできた愛人なので
泣いたり駄々をこねたりせずに
お久しぶりと
笑ってくれる
「連絡取れなくてごめんね。元気だった? ....
東大の赤門で
「ほんとに赤いね」
と言った私を
「ほんとにそんなこと言うんだね。ふつうだね」
と言っていたあなたは
鞄にこそぎ見える
赤いギンガムチェックのショーツを
「こんなにかわいい ....
不治の病にかかった
「愛している」と言おうとすると
「うすらトンカチ」と言ってしまうらしい
もう
うすらトンカチと言える君は
そばに居ない
ああ、うすらトンカチが
死語でよか ....
お互いに歳をとったら
春の日の縁側で
あなたの膝枕で
眠るように死にたい
と言ったら
あなたは泣いた
六畳間の安いパイプベッドの上で
まだ社会にでることすら想像できなかった
若かっ ....
やろうとしていたこと
鍵を差し込むべき鍵穴に
母のズロースを差し込もうとしていたこと
そうだ 父に見せなくては、と思い立ち
犬を連れて落雷を待ち焦がれていた ということ
落雷 ....
朝の寝床で聞く ででぽっぽぅ
は 夏の息苦しさ
貝塚の丘のぽっぽどり
何を歌うか
生の証を 風に乗せて
ぽー ぽー ででぽっぽぅ
鉄の扉 内には把手が無い
日曜の午後 鳩が鳴く
....
デート中
予算オーバーなりかけで
ふと見つけたATM
そこですかさず金下ろす俺
蛾を喰った
チョコレートみたいな味がするって
誰かの言葉
試したくなって
ちょっとした
興味本位で
蛾を喰ってみた
ジタバタするあいつ
捕まえると
毒になる粉
いっ ....
「おふとんに入った?」
「はい」
目を閉じて
わたしはあなたを
捏造する
雨があがると
わたしたちはいっせいにとびだした
雨があがったので
傘などはまったくもっていなかったが
雨はあがったのに
みな ながぐつでかけだしていった
ふたり
みほこちゃんとまこちゃん ....
黒いレースカーテンに透ける色ガラス窓が
めずらしい声で鳴きつつ
さっき
ひび割れてくのを
めでもみみでもはなでも
くちでもてでもあし
でもせいきでも
あなるでも
ないき
かん
....
困っている
と言えば助かるのだろう
けれど
それをしない
はずだ
決めつけてはいけない
咳払いでごまかすに過ぎない
言う気と勇気の発音のちがい
うしろめたさを知るためらい
....
あぁ・・・ また あなたですか・・・
何? 熱がまた出た?
何度あるんですか?
三十七度五分?
微熱じゃないですかぁ!
そんなのは 熱のうちに入りませんよ
僕たち医者が言う「熱」っていうの ....
人生なんて
タバコみたいなもので
吸っても別に
どうって事ないのに
有害で
蝕まれていくのだ
長く吸っても
短くて消しても
どうせたかが
知れているのに
渋くなっても
吸い続けて ....
1 2 3 4