鬼灯の実が紅くなると中身を綺麗に抜き取って空にした
それを口に含んで上手に鳴らした
脳裏に仄かな明かり
思い出には靄がかかっていた
子供らはとても無邪気
数人の男のこのなかに女のこが ....
珈琲の中に
城を作った
溶ける角砂糖
火傷する体
十個目の窓に
助けてと願う
白い粒子が
マグカップの色で
塗り潰されて
スプーンで
混ぜると
黒い海に光る
星 ....
をとひと
ひとしきり夢をかたるもの
いつまでたってもそのままで
ずっとそのままで
いもひと
ずっと手を
つないでほしがってると
ただ思いこんでいた
....
見渡す限りの地平線
垂直に立ち、歩む人
何処までも何処までも
肉を携え魂を生かし
意志の命ずるそのままに
今在る不思議に打ち震え
誕生日おめでとう
私はだんだん私ではない何かになっていく
その姿をあなたに見ていて欲しかった
止めて欲しいとか
哀れんで欲しいとか
そんなんじゃない
私は
私が変容するさまを
あなたに ....
あまりの寂しさに
体からスライムを出せるようになった僕は
だれも覗かない自室の中で強張ると
無色透明な粘液に包まれる
まだらに入った気泡になんだかやすらぐ
必然性を含有していないからだろ ....
あなたは少しだけ震える声で
言葉を世界へ解き放っていく
それは遠い未来の記憶だ
空のこと、風のこと、涙のこと
夕焼けのこと、無くした恋のこと
あなたが生まれた朝のことだ
そんなことは無 ....
「モラトリアム」
貝殻の中で
海の響きに耳を澄ませていた
澱んだ温かさの中で
海の響きは一筋の救いのよう
澱んだ温かさの中で
貝殻の砕ける日を待っていた
....
戸棚のなかには古く硬くなりはじめた
フランスパンに安いチリ産のワイン
書きかけの手紙はすでに発酵し始め
こいつはなんになる? 味噌でも醤油でも
ない、カース・マルツ? 冴えないな
フォル ....
世界はいつだって
出来上がった何かをなぞっているだけだから
やつらの真似をするのはやめておけ
前に居た誰かと同じになってしまうから
お題目を鵜呑みにせず
ひとつひとつ自分で考えて
自分 ....
いつか真夜中に犬たちの遠吠えが
飛び交っていたことがある
あれはいつだったか
野良犬というものをいつからか観なくなり
町はひどく清潔で余所余所しくなった
リードに首輪、犬たちも主人により ....
失うことここで
そう喪失を得て
3と7の鬩ぎ合い昼と夜の
揺らめく結び目シルクのワルツに不規則な鞭を入れる
朝顔たちの禁欲の裂け目から
積み重ねた箱の中の比喩は脚の多い生き物がマネキンの
....
ひかり ひかり
青に 眩み
光 光
人は 歩む
ひかり ひかり
大地 廻り
光 光
人は 進む
まるで白昼夢だ
満月の頃
青空に黒い月が浮かんでいるように
胸には小さな宇宙のような穴が開いていて
埋める星の金平糖を探し続けていた
潮の香りの染みついた
大きな河の静かな照り返し ....
この深夜、
独り在ることに寛いで
宇宙の時流に乗っていく
すっと孤独に留まりながら
この隙間だらけのあばら家に
雷鳴が轟くのを待っている
境界の門が開く、その時を
例えば今、息を吐く。
そして、二度と吸うことが無くてもいい――
結論からいえば
その日は私の声音に含まれる死神の衣擦れが
転覆病の金魚の側線を掠めただけだった
パクパクする半透明な唇を読 ....
誰もがそれとわかるように
名前をつけてみましょうか
花と名前をつけます
蜂と名前をつけます
光と名前をつけます
だけれど君がそれを指さすとき
花と戯れる蜂や蜂と戯れる花を
輝かせ ....
たとえ
俺が歩けなくなったとしても
路は途切れないさ
たとえ
俺に朝が来なくなっても
街路の樹木は立っているさ
たとえ
俺が夜に溜め息をつけなくなっても
繁華街の立て看板に明かりはつく ....
打ち捨てられた死骸の硬直した筋肉は鮮やかな色身だけが失われていて、それはまるで土に擬態しようと望んでいるみたいだった、心配は要らない、それは必ず叶えられる、おまえがもっと失われ続けたあとに…耳 ....
小窓から月明かり
納屋のなかでは笑い声
明日は畑に植えられる
種イモたちがくすくす
錆びても鋭い鎌に鉈は
ときおりカタカタ笑い
鉋は葦の笛をふく
春一番が待ち遠しく
女羊飼いが待ち ....
浮遊している座布団の上に立っている
長い長い
己が棹を鯉のぼりに見せかけようとしている
水門の釣り人たち
正面に回り込めば
身が引き締まるような旧い見事な水茎
細い道が出来上がって
シシ ....
壁にもたれて 乾き切らない洗濯物をたためず
生中継が始まる
26度の暖房 寝室の加湿器
今 私がいるところに 蛍光灯一つ
ロマンの代わりに湯気が昇って
いない… 白湯の飲み頃か
壁 ....
ただあるがまま
ありのままに
この不安定を
巧みに乗りこなし
絶対未知の際へと至る
(薄明の稲妻と雷鳴は
常に不断にこのあばら家を襲い)
日一日を乗り越え乗り越え
見も知らぬ神 ....
夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった
夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて
あなたはもはやあなたではなくわたしの心の影法師なのに
あなたを知りあなたの心を慮ることで虚 ....
ミハイルには翼が四つある
バーン=ジョーンズの絵画のように美しい優雅な翼だ
けれど目には見えない その背中には何もない
ミチルは三つ ミーチャは二つある
わたしの翼はひとつだけ
片翼 ....
山の稜線が静かに燃えている
白々と、諸人の魂や神々が
頂きへと登りゆく夕まぐれ
誰もがすれ違いながら
互いに頷きあう、それも無意識に
生命が燃えている、あの山の頂きへ
向かうときではな ....
五四年前の東京で
出稼ぎに出ていた大叔父が
なけなしの給料でお前をかったのだ
それから朝も昼も夜も
休むことなく
一日 八万六千四百回
時を刻む勤勉なお前は大叔父の誇りだった
東 ....
雪のふりつもる音を
私の耳はとらえているのだろうか
青い夕暮れに白い雪ぱらぱらふるふるもっとふれふれ
夜 雪は少しの光を乱反射してほのかに明るく
しずかに しずかになっていくけれど
....
見交わす、
立ちのぼる、
瞳の中の揺らめく樹木
私たちは、いま、もっとも生きている、ということ
強い風に吹きつけられる
一匹の猫が
民家の塀を
豹の速度で駆け登ってゆくさまが見える
掠 ....
いつまでも、直らない、
おのが、おのの肉を、喰らい千切る、
悔恨の、
獅子、
もう一度壊して、
また、再合成、
しなければ、ならぬから、
それでも、
正当性を含んだ、
筋繊維で、
....
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