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青空が遥か高く張りつめた時
草も花もない地上に
私は頼りなく立っていた
掌の感触は忘れていない
あなたの爽やかな顎をなで
たくましい肋骨を数えた
奇妙に光る瞳で私を縛 ....
東の窓辺で目を覚ます
ゼラニューム
もどり梅雨の雨声が
耳にしたしく寄ってくる
麦芽のような珈琲の香りと
かるくトーストしたクロワッサン
昨日の埃とまざりあった
私自 ....
西風が吹きつける
白い塗装の剥げかけた
木枠の窓
嵐の前の雨が胸をつき
かえるべき場所を見失った心は
ぐるりぐるり
過去の幻をめぐるだけで
固くなる
あなたは ....
京阪電車の線路沿い
車道を跨いだ無地の五線譜に
音符が一拍、陽射しで霞み
黒い羽をひろげて飛びたった
窓越しに流れる炎昼は
人通りもなく
『割烹あんど喫茶』の看板を ....
化粧水を浸したコットンパフで
やさしく押さえる目元や頬に
いつのまにか
またシミがひろがっている
ささくれ立つ気持ちの
燃えのこる夜
シーリングライトで照らされる
....
待ちかまえていたのか
折悪しく雨がぱらついて
遠くない駅までの道を濡れていく
JRで一駅先の改札を出ると
もう雨は止んでいて
踏切の向こう、陽ざしが流れおちている
滝のう ....
小さな瓦屋根の付いた
土塀が続くわき道で
赤い郵便バイクとすれちがう
黄土色の築地塀はひとところ
くずれたままになっていて
原付のエンジン音が
その空隙から逃げていっ ....
長男の叔父が相続して売却されるまで
二十五年間空き家だった
母の実家
大きな日本家屋の庭で
剪定されない樹木と荒畑
雑草の茂る一角に、水仙が
亡くなった祖母を忘れじと香る ....
地上のある一部の上を
浮遊しているシジミチョウ
少し伸びている青芝には
いちめんの陽射し
こめかみを撫でる風と
こうしていま、私はひとりで
ビルの壁際に沿った歩道を歩き
....
「この靴みて!」
靴底の端が切れてパカッと割れた状態になっている
スニーカーを私へ差し出して
「朝は、こんなんになってなかったわ」
悪戯だと思い込み反応をさぐる様な彼女の目付き
....
おとつい買ったばかりの
ミドル丈のレインブーツ
人気のない舗道に目をやりながら歩く
おおきな水たまりもへっちゃら
雨はアジサイの植え込みを揺らして
色づく花房に打ちつける
....
アナベルの咲きそろう庭に遭い
手で触れることを
ためらって
六月の午後にあがった
冷たい雨
潤ってあざやかな花房に
そっと 顔を寄せると
控えめで甘い匂いは
....
三輪車コロコロ転がして
ゆるやかな坂を下る道、
わづかに小石遊ばせて入る
梅林
手の届かない
白くかすんだ花
ちらつき始めた小雪が
桃色のカーディガンに降り
いつ ....
冬の石畳みの
陽だまりを愛しながら
時計の針で刻めない
とおい未来から届く昨日を
思い起こしてみる
追いもしない記憶に追われもせず
そこに立ち止まって
年齢を重ねる自 ....
古い白い花の蔭に
恋の嘆きをみていたむかし
チョコレートの銀紙を
折り畳みながら過ごした夜
なつかしい想い出は
楽しく稚い愛の物語
その震えも忘れてはいないけれど
....
急な傾斜の小径をのぼり切れば
大きな旧居の横手に広がる
段々畑が見えてくる
金網のフェンス越し、
至近距離で咲いているアザミへ
iPadのカメラを向けてみる
うつし世の碧 ....
氷鳴る
グラスの縁に刺さっている
大きめなカットレモン
摘み上げて絞れば
目にもこまやかに射しこんでくる
濃度を増す酸っぱさ
其処は尾道の坂の途中にある喫茶店
....
西陽とたわむれる
噴水の水の音は
子どものようにまるくなってかけまわり
わたしへ小さく手を振って
「またね」
…… 、
鈴懸の樹が葉を落とす風に鎮もる
涼風にのっ ....
霧が匂う
隠された風景の先を見ている
霧はたえず
その気配でただようしかなく
歩み出れば崖っぷちに咲く野の花の細い茎を
つかむような愛ならば
もはや私に
緑なき ....
雲よりも
高いところの虚ろな光
欠けた兎影に 目を凝らす
背後で、製紙工場の正門から細い通りへ出る
大型トラックのタイヤが路面に擦れる
緑色の金網が張られたフェンス越しに ....
午後の熱にうだる
れんが道
口から舌を出したまま
首をうなだれる小さな犬を抱く
中年の女性とすれ違う
植え込みには等間隔で咲く
枯れ色になったミニヒマワリ
まちは夢 ....
衣装ケースの底に今も蔵って有る
レトログリーンに白ドット柄の
スカート付き水着
もう 着れる歳でなくなってからも
ずっと処分せずにいた
これが一枚の写真の様だから
眩 ....
冷蔵庫から取り出した
ガラス小鉢の紅茶ゼリー
ノンシュガーのルベウスに
ちょっと多めにのせる生クリーム
リビングには尖った葉を上向きに茂らせる
アンスリウムが、柘榴石のような ....
激しく降った雨で
低い土手の生い繁る雑木は
いっそう緑濃くなり
駐車場の水溜りをよけながら
歩くスカートの裾が
まつわりつく
建屋の脇には短い竹林の小径
聳り立つ ....
日照りつけて
前方に霞む百日紅には
二匹のクマンバチ
ふと足もとを
蜻蛉のちぎれた一枚羽が
微風に 晒される
古道の低い石積みの傍、
生い茂る樹木の根元で
....
喉滑る夜半の冷茶
温くなった保冷枕を取り替えて
寝間へ戻れば 扇風機の寂風が、
モザイクかかる途切れた夢の
あなたを白い紙屑にした
サワサワと吹く松の風
ふと目をあげたら
海に迫る山肌に
薄い雪
尽きる事のない様に見える
波のたゆたいは
その胎内に微生物の死骸がまっしろく
降りつづけるのを感じてい ....
字をかく
筆先の弾力が
未知の世界に突入する
柔らかくしなりながら
墨は、
濃く薄く線を描く
{引用=ヴァイブレーションに充ちた
小さな愛の告白を
嘲笑うべきではなか ....
嵐の夜
いく本かの北山杉が
悲鳴もあげずに倒れた
十四歳だった私が
暗い峠を越えた山間地の
北山杉は
鋭く尖ってざわめいて
無垢な翼を持った時代のおもいで
嵐 ....
畳の間、煙立つ
半分に折ったお線香
母へ挨拶する私を
初夏の陽が
ただ ゆるゆるといたわって
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