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足したあとで引いた
寒い店で電気ブランを飲む
夜の新宿 昔の女の耳の形で
魂は柔らかく{ルビ凝=こご}っている
お前には情熱というものがないと云われた
....
あなたを思うと、
わたしの心に幾つもの
穏やかな図形が描かれる
熱い珈琲をかきまぜながら
窓の向うの樹をあなたは見ている
たぶん、世界じゅうのすべてのものが
....
山道の草木を横切る
ギンヤンマの蒼い複眼に
私たちの過去が沈んでおり
どうやら今も放熱を続けている
遠く 手放してしまったものも
未だ近く 触れられるものも
....
青毛の馬が 風にまかせ
わたしたちを連れてきた
潰れかけの酒場はまだ 開くには早い
空き瓶が入っていない 汚れたビールケース
うるんだ眼がわたしたちを睨む
わ ....
天使は窓の縁に座り
少しずつ透き通り 外の闇と
見分けがつかなくなってしまった……
バッハの遺した鮮やかなコラールが
床の木目に 僅かな痕をのこした{ルビ後=のち} ....
驚くに値しない
あなたの指のなかに
古い町がひとつ埋まっていようが
青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
一列に ....