古くて重いげき鉄を
引き起こして打つ単発銃を
最新の銃だと陸軍上等兵は誇らしげに説明しながら
天皇陛下という四文字を並べる前には
最上級の姿勢でしかも深々と頭を垂れる姿は絵になった
桜 ....
孤独な家である
夜になると
独り言のように明かりがぽつんと灯る
人の気配はするのだが
玄関がない ことりともしない
死んでいる ....
孫の走り寄ってくる靴音にも
萎縮する心がある
可愛い絵模様の靴の音なのだと言い聞かせてみても
すぐに戦中の行進へと
画面が切り替わってしまうのだ
あの時代の靴音は
平和の扉を無理や ....
そうですねと 軽く合槌を打ちながら
何を話していたのだろうか
まだ余熱はあるのだが
その方に出会ったのは偶然なのかも知れない
私の心は少し疲れていて
絵便りの中 ....
寂しさの種をいつ蒔いたのだろうか
知らないうちに芽が出て
大きな葉っぱになってしまった
失敗したなと
悔やんだことはたくさんあったから
その実が心情という畑に
落ち零れたのだろう
....
指輪から産まれた棘が
傷になる前に
心根から小さな棘を数本抜いた
一つの形が崩れると
棘の姿が真新しい傷に変わるから
小さな秘密を隠すように
指輪を口元に持ってくる
集積された棘から ....
夕方になると
家の中の丸いテーブルに
収穫した夕日がたくさん並べられた
トントンとまな板で
取立ての収穫を刻む音は軽快で
一日の話題は素朴だが
夕日色に包まると砂糖の香りがした
夕日 ....
空が何度となく回って
風が落下してくる
円周率の中に取り残されているものは
僅かだ
失敗を恐れているからその一点は
滑りやすい
号令がかかって一斉に回るのだが
僕の回転軸は
歪んで ....
止まらない電車がある
一本乗り遅れると一日待っても電車は来ない
行き先は右か左か
悲しみを時間の中に置いて
見送るもののその先を考えている
長い読経が終わった
乗り遅れないようにと位牌 ....
満点の暑さを引き連れて
夏はやってきた
蟻の大行列は
トンネル深く沈み込んで働くことを諦めた
公園の噴水は
温水となってまわりに放出し始めている
花々は枯れ始めた
....
今日買った命の類の幾つかを
家計簿に記入し冷蔵庫にしまい込んだ
冷蔵庫の中には
買い置きしていた命の類がまだ残ってはいるが
あっという間に日替わりするから
大安売りの命の類であっても
家計 ....
色づけは賑やかにした。表現は自由だからと複雑な視点を置いた。真っ白なままの表現もあるのだろうが、真っ白のままでは、万の捉え方があって複雑過ぎるから、色を自由に塗り重ねていくことにした ....
ファッションを買いに来たのではない
笑いを買いに来たのだ
一週間も笑わないと
一日の神経の隅々まで偏屈になる
笑いを売る店が
このデパートの奥まったところにある
電話売りはしないから
....
青い空はキャンパスだと
蝉が鳴く大木辺りから
秋の気配が広がり始まる
読書したものの中から
一文を抜き出して
まわりに読み聞かせてみる
穏やかに丸まるものばかりではな ....
どこにでもあるようなタイトルを拾ってきた
長い暑さが続いた後だから
とても新鮮に思えた
四方に耳が広がって
飛び散る地面から音を拾い集めてくると
単調さに紛れて
複雑な雑念が洗い流 ....
遠くへと雲が流れていく。暑さの真ん中が少し移動すると、残暑お見舞いが次から次へと届く。蝉が鳴き急いでいる。新盆まわりを忙しく済ませると朝夕の風が庭先で、涼しさを演出し始める。伸びた雑 ....
騒ぎは大きくなって避雷針が燃えている
パソコンは遮断されて
あなたとの通信ができないでいる
今日の約束を変更すべきかどうか
目隠しされた手段とは
折れ曲がった棒切れのようなもので
ぶつ ....
秋の言葉を山盛りにした籠には
色とりどりの付箋が貼ってある
坂道の先の赤トンボが群れている辺りに
配達する家があって
どんな挨拶を交わして
玄関を入るべきかを考えている
素肌に纏っ ....
たくさんある答えの中から
わたしに相応しい答えを探し出そうとしてみる
わたしに頼まれたわけではないのだが
わたしは何故かそうしたかったのだ
わたしにとっては迷惑なことなのかも知れないが
....
ナイフとフォークで
白い雲を少し切り刻むと
青い空がするりと落ちてきた
傍らに小奇麗な色で衣替えした
収穫の時間を置くと
秋の形が出来上がった
味覚を一つずつ競うように
....
狩の始まりは静かだ
かさこそと通り過ぎる雑念は
思考の奥底に置いて
計算され尽した引き金の先端に
鋭利な極限を置く
そこに目標が生まれ
葛藤するものが死へのルートを
....
緊張感だよね。止められない理由は。にたりと腹の中で笑って涙を拭いたりしている。役者だねと言われると嬉しくなって、また隠し事をしてしまう。誰からも責められないから罪がないなんて思ってはいないよ。でも ....
寡黙なものは寡黙なままだ
高齢になってしまった
爺様と婆様
薪ストーブの時代を思い出している
かじかんだ思考が
チーズの溶ける仕草を真似ながら
五感の隅々へと広がっていく
懐かしい冬 ....
柑橘類が口の中で甘く香っている。心の片隅では炭酸が甘くはじけ飛んでいる。グラスの中のひと欠片の氷を競い合うようにして、夕暮れが喉もとに下りてくる。縁側の置石に手酌するように水をまく。ラムネ色の短い ....
古い絵本は古い本棚の奥にしまい込まれていた。埃を掃ってから古い時代の時間を巻き戻してみた。水が難しそうな顔をして、山奥からからこぼれ落ちてきた木の実と話をしている。木々が立ち姿を気にしな ....
昨日A君と久し振りに会った
少し立ち話をして電車どおりの角で別れた
そう言えばB君から残暑見舞いがきていた
彼岸花の絵模様だけだったが
A君とB君とも
長い間行き来が途絶えていたから
....
不整脈だといわれた日から
どんな脈にも反応して
性格は治せませんよと
ドクターの笑いながらの一言
わかっているのだが
上手に隠し事もできない
だから波形が几帳面に整列 ....
送り火を焚いて送り出し
お盆の月を越えると
残暑という夏の名残りだけが残った
ご先祖様の供養を
夏の真ん中に置いて兄弟達で
あの頃を懐かしんだ
残暑お見舞いが届い ....
カラーの雨傘で
空の青さを待った
変化が大きいと
くしゃんくしゃんと
花だって風邪をひく
上書きするものは
画用紙に描かれた青い空と
虹の寸描
そこに紫陽花の群落があって
光が合 ....
高さとは
ピントが合わせにくいものだ
望遠レンズの先にある
高さの下に言葉を置いて
その先に括弧書きするように
灯台の思いを置く
大きなものが
身近に引き寄せられて
....
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