何もなかった。
植物も動物も
なにも。
風も匂いも
なにも。
時間も方角も
なにも。
そこには砂しかなかった。
砂は生命に降り積もり
砂は時間を覆い隠した。
すべてを。 ....
彼女の手は優雅極まりなかった。
注がれたグラスを指だけで持つのも
差し出された手に手で応えるのも
様になったし、僕はなんとかしてその手をとろうと
やっきになった。
トラン ....
物語を
ネガとポジという物事の光と闇に
ライトを浴びせ
一コマ一コマ丹念に読経のように
語り紡ぐ
黄金色に輝く映写館があるのだと
祖父はわたしに教えてくれた。
当時僕は6 ....
僕らが愛を語れるのは
僕らが愛を知らないからだ。
僕らが誰かを愛せるのは
僕らが愛について考えないでいれるからだ。
愛は
証明できる欺瞞 99%
証明できない純真 1%
....
フォーカスが甘くて
魚の顎にピントが合った。
フォーカスを合わせようと
距離をはかり、あの劇的なピントのoffとon。
霧深い惑星から霧が一度に消えたよに。
物語のはじまり。 ....
コーヒーの乾いたカスがこびりつく
カップに何度目かのコーヒーを注ぐ。
知ってるさ
そうやって層をなすコーヒーは
疲労の蓄積と同じくなかなか落ちないということなんて。
鳶が
窓の ....
いつのまにか
空が沈黙というものに取って代わられていた。
それは風を速度規制で逮捕拘留。
それは雲を飲酒運転の罪で投獄してしまっていた。
風と雲がいなくなってしまったせいで、
鳥が飛べな ....
言葉が消えた。
心の凪。
思想の真空。
言葉が失せた。
耳を塞いでシャワーをあびる。
耳じゃなくて皮膚が水のつぶての音を拾う。
あの感じがいとおしい。
僕は愛しているというS ....
文字が映像に感じるような
男性が女性に感じるような
そんな嫉妬。
さっき僕が感じたのは大袈裟にいえばそんな嫉妬。
縦組みの日本語よりも
横組みの英語のほうが
....
青空が好きなんて、きみはっ!
と
心理学者はためいきをついた。
子猫の鳴き声が好きなんてなんということを!
と
心理学者は憤りを隠そうともしなかった。
好き ....
10歳も年下の詩人の言葉。
訳知り顔で愛をかたり
人の眼を凝視する。
僕は見透かされている。
ただただ
負けまいという10年のキャリアという薄っぺらな矜持を持って
対峙する。
....
広場ではカーニバルの真っ最中。
となりのマンションの窓からは
ヨカナーンの首の実証見聞がオコナワレテイルノガミエル。
そう、カーニバルの最中ほど淫猥な儀式が似合うときなんてありはしないのだ。
....
回転する車輪。
スピード。
スポークは隣のスポークに溶けスピードを醸成する。
ちびくろさんぼのタイガーがバターを醸成するように。
スピードを有している僕は
その構造を知る ....
あなたに
ソネットのソケット
嵌めてあげよう。
それで
あなたの言葉は叙情と出会う事となる。
エレキギターにエレキを注入するみたいにさ。
ボディにソウルを注入するみたい ....
ほどけた右足の靴
キュッと結び直す。
左足のきつさと、右足のきつさ、そのちぐはぐに。
本を読み終える
それに足りないもうひと駅に。
切 ....
0.23sec.