[33]こひもともひこ[2014 04/08 03:25]
見せてくれて、精神に一つの紀元を劃【かく】してくれる本があるものだ。それは新しい世界の扉を大きく開いてくれ、その後我々は知力をそこに傾けることになる。それは一つの火花で、炉に?の口火を運んでくれるものだ。炉の中の薪はこの火花の助けがなければ、いつまでも役に立てられないままで終る。そして、我々の思想の発展上、新しい紀元の出発点となるこんな本を手にする機会は、よく偶然が与えてくれるものだ。ほんのつまらない事情、どうかして眼にふれた数行の文字が、我々の将来を決定し、運命の轍【わだち】の中に我々を引き入れてしまうのだ。

『完訳 ファーブル昆虫記1』山田吉彦・林達夫 訳(岩波文庫)より


 
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