壊れもの/千波 一也
 


非常階段で
セックスしよう、って言ったなら
きみは怪訝に嗤うだろうね

嗤う以外に
すべを選べないきみが好きだし
非常階段の
新たな用途の可能性が
微細に肯定されるかも知れないような
うやむやな瞬間が
原始の海の景色のように
未知めいていて
好きなんだ

つながりたい衝動は
途切れることなく続いてる
たとえば鏡の向こうのきみに
たとえばテラスの陽光の中
それから
故郷を見下ろす高台
それからヒールの靴音の途中
ね、
ぼくはいつだって
どうしようもないけれど
開拓はそういうものなんだろうし
開拓なくして
ロマンはないから




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