小詩集【すべてはとうに月でした】/千波 一也
三 ほんとは知らない
知っているのです
何もかも
自分の名前も
それが生まれた
日のことも
ただ
ひとつ
音だけは
蘇らなくて
一向に
蘇らなくて
幻と呼ぶにも
静か過ぎるのです
だから
見つめて
いるのです
不穏に満ちた
安息の
名で
何も
悟られず
四 野生の反論
荒野には
正直者しか生きていない
欺瞞は
ひとつも生きられない
万一
例外が
あったとしても
時間は
例外なく
有限だから
結局
事実は変わらない
それゆえ荒野は
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