小詩集【ルナ区の片隅で少年少女は】/千波 一也
 
などではない
だろう

向こうから
傷を傷ともせずに
誰かが
無理矢理に
笑ってはくれないだろうか

そんな願いこそが
どうしようもなく痛い

鉄条網を越えてくるものは
いまだに風ばかり

いつのまにやら
有刺鉄線は張り巡らされて
だれが
だれを守れなかった
痕跡なのだろう
有志、と呟けば
乾いたくちびるが
あてもなく
ちぎれる

水分は
やがて錆びつくから
涙と汗と血液と
うるおいにまみれる自分は
鉄条網の敵なのだ

何よりもまず
この眼前の
鉄条網が敵なのだ



六、きみがために

いのちの
かたちというものを
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