神奈川県真鶴にて/恋月 ぴの
 
秋の海が寂しいのは
歩んできた人生
友と過ごした灼けるような喧騒も
土用波に掠られて
何事も無かったように
空を舞う海鳥
打ち寄せられた流木は
海鳴りの向う岸へ
置いてきた魂の重さだけ
軽くなって
海鳥は二度と
この浜には戻らないだろう
上空へと飛び立ったまま
スパイラルの揚力に両翼を拡げ
(言い残したことは無いのか
船泊まりに漂う
舶用機関の油膜に虹を見た
(船出は何時なのか
此処に留まっていれば
何があるのか気にしなければ
外海の厳しさを知らずに済む筈なのに
故郷を知らず
母の名も知らず
潮の交わるところまで
この船を出そうと言うのか
秋の海は寂しく
遠く沖の背は潮騒に酔う

  グループ"言霊番外地"
   Point(21)