多重の自我の
小箱たち
幾重にも
蓋われた 郷愁
霧雨の中で
冷たく濡れていた
かなしみも
木枯らしの中
いくつもに分裂しながら
泣き叫んでいた
さびしさも
闇色の箱の片隅には
引き裂かれた思いの
切れはしも
あの日の約束は
砂浜に置き去りにされた
あの日の約束は
虹の橋
通り過ぎる
温かい雨のなかを
遠ざかっていったね
真夜中に 大切な
おもちゃ箱を開けたように
記憶を辿っているのかい
さあ さあ
もうおやすみ
マトリョーシュカ
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