引きこもり/花形新次
部屋の奥で
俺は もう十年も
世界をやり過ごしている
壁に耳を当てると
どこか遠くで
鉄骨がきしむ音がする
誰かが死んだニュースが
テレビの青い光にのって
午前二時の床を這いずっている
俺はここにいて
生きている と
言えるだろうか
ドアの隙間から
投げ込まれたチラシの裏側に
俺の未来が書いてある
「今すぐ電話を――」
と印刷されている
だが 俺は受話器を上げない
俺はこの部屋の重力に
鎖でつながれている
外へ出るのは簡単だ
ただドアを開けるだけだ
だが
俺はまだ
この四畳半で
誰にも見られないまま
燃え残っている
いつか
夜明け前のガラス戸を蹴り破って
まぶしい空気の中へ
血まみれで飛び出してやる
それまで
俺は ここで
生きているふりを続ける
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