Miz 8/深水遊脚
 
嗜む、思い込みの激しそうなおそらく男性の書いた詩。この詩のことはどうでもいい。そこに確かに、仮名にして名を消せと命じるあの詩があったのだ。

「それは紫乃さんの見間違いじゃないかな。僕はけっこうこのカフェロワイヤルの詩、気に入っているし。それに、いま教えてもらったような詩はみたことないよ。僕も詩が好きだからこのノートは時々読み返すけれど。」

詩が好きなこのお店のマスターがこう言うのだから間違いはない。あの詩は存在しないのだ。それなのに私の記憶にはっきりと残った。

 考えてみれば不自然なことばかりだった。わりと記憶力はいい方だけれど、一言一句覚えていたというのも他に経験がなかった。そ
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