尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 
だが違うものを見る人もいるだろう。ラヴェルを聴いた婦人が「この音楽は私に一つの画因(モチーフ)を暗示する」といってひどく興奮していたらしい。その人はデザイナーだったので、そのラヴェルがどのような図案になったのか、とても気になるところだ、という。このように、例はいろいろあるが、音楽が想起させるイメージは人の職業や生活や関心事によって違いがあるのは当然である。そこで、山と音楽という題を与えられた喜八さんは、私の経験にもとづいてしか語れないのだ、と前置きをしてからこう言う。

 一体、山を歩いていて音楽を想うというよりも、私の場合だと、音楽を聞きながら山地の自然や生活を聯想す
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   グループ"フレージストのための音楽"
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