連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
 
こんだ
太陽の光が反射してきらめく水の中で
彼は呼吸しながら泳いだ
他の子供たちも彼につづいた
祈る人も泳いだ
川で泳ぐのははじめてであるにも関わらず
彼は川 そのもののように泳いだ
泳ぎつかれて水面に顔を出し
島を見上げると
ひとりの少女が家の戸口に佇んでいた
彼女は川に祈る人の姿を認めると
にわかに跪き
激しく嘔吐した

その少女が家長の妻だった
家長によると
彼女は少女のようではあるが
実際は八十八歳であり
家長自身は老人のように見えるが
二十二歳だった
そして子供たちは
それぞれ年齢が違っているように見えるが
みなつい昨日生まれたばかりだった

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