連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
 


その夜家長は
妻を看病していて一睡もしなかった
祈る人も
その様子を見ていて一睡もしなかった
老人のような若者が
少女のような老婆を
看病する光景は神聖かつ
背徳的な色合いを帯びていた
その後ろで
同時に生まれた十二人の子供たちは
魚の夢を見ていた

祈る人は
家族とともに多くの日を過ごした
家長の妻は
病の床に伏せったままで
視線の隅で祈る人の姿を認める度に
激しく嘔吐した
祈る人は
夫婦にはなるべく近寄らないようにし
十二人の子供たちと
川を泳いで時を過ごした

ある日
祈る人は子供たちに歌を聴かせた
それは生まれた時から憶えている歌だ
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