連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
指して
この大陸の突端の先に茫洋と広がる
わが歌のふところを目指して
俺は流れていたのだ
流れることの
所在なき快楽
俺は川としての
生を
生きていた
歴史はまだなかった
人はまだ生まれておらず
この地球上にあるのは
原初の有機物と
水
土
火
空
そして霊魂だけだった
俺は川だった
俺は「太古の川」だった
この大陸の尻尾で
雄大に流れていたのだった
(隕石よ)
(隕石よ)
かつての大陸と列島との
戦い
その先頭に立って俺は
川として流れることで
列島と戦っていたのだ
だが川よ
(お前だ)
俺は川としての生を終え
いま
人として
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