連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
 

ただひとりの人として
この地に立っている
歴史はいまやお前に対して
あまりにも厳しいが
せめて
流れよ
かつての俺のように
人の愚かな支配の手から逃れて
ただ一本の
清流として
濁流として
流れて
歌のふところに還れ
俺はかつて
川として流れていたが
流れとともに幾多の土砂を
押し流し
押し流し
新しい陸地を造り
やがて川としての使命を終え
この大陸の突端で
枯れ果てたのだった
だが見よ
この世に水がある限り
川はまた新しく生まれる
人の支配の手を
するりとかわして
かつての俺のような
新しい川が生まれるのだ
川よ
いま俺は立つ

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