明るい壁/緑茶塵
 
険しい谷に落ちて行く。
そしてそれを眺めても眺めても美しく腰まで届く長い髪は、柔らかく緩く束ねられていた。


包むように広がる蒼天の合間を縫って、白い一筋の竜が仮面の向こうの彼方に舞う。
紅く輝く竜眼の右眼は、造られて壊れた人形が腕に抱く宝玉によく似ていた。
傍らに響く収穫祭の音と踊りは、その輪のなかでかつての想いに槍を胸に突きたてる。
土の下には身に纏う衣が黒い古着の男を。
蒼天には若き騎士を。
壁ごしに並ぶ後ろ姿と背中に篝火の影を選び、百獣を連れた旋律のある美しい調停は鉄と髪止めとを。

獅子を眺め、湖を眺め。月に映り、風になびく。
森の中の鏡のように掌には、霧のよう
[次のページ]
戻る   Point(1)