聖女のオルガン /服部 剛
たいして金のないわが家に
いずれ残ったら金をくれと言っていた
付き合いの長いSさんが来たので
眉をしかめていた僕は
家にいたくないので外へ出た
散歩の途中
なだらかな坂を上ると
緑の屋根の教会があり
ドアを左右に開くと
両脇に並ぶ長椅子の間に敷かれた
ぶどう酒色のじゅうたんの向こう
( 十字架にかけられた人は
( 黙って両腕を広げ
( 心の煮えきっていた僕を待っていた
最後列の長椅子に
腰を下ろし
胸に両手を当て
瞳を閉じる
( 闇に伸びるSさんの汚れた手は
( ほかの誰かに何かをほしがる
(
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)