忘れること、忘れないでいること/岡部淳太郎
 
らばこの詩が彼のことを念頭に置いて書かれたものだということに気づいてもらえたのではないかと思う。
 そろそろ正直に言うべきだろう。実を言うと、僕は怒っているのである。いや、怒りに似た感情を抱いていたと言いかえた方が適切かもしれない。彼の死に対してではない。彼が亡くなった後、それに対してみんなが何となく触れてはいけないようなものとして、彼のことを語るのを避けているように見えたことについてである。そんな態度に対して、僕は怒りに似た感情を抱いてしまったのだ。まるで彼がいたことを最初からなかったことのように、そんな人は初めから存在しなかったかのようにみんながふるまっている。そんなふうに思えて僕はいらだっ
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