忘れること、忘れないでいること/岡部淳太郎
た。驚きだった。彼は僕から比べればまだ若かったから、退会をよくあることのひとつとして受け止めまさか死ぬなどとは思わなかったのだ。彼は若かったが、僕などよりもずっと才能があり頭も良かった。詩に小説に批評にと縦横無尽に筆を揮う彼に僕は感嘆し、心のどこかで畏怖に似た思いを抱いていた。
彼の死のしらせを聞いた後、僕は彼のために一篇の詩を書いた。彼が残した一連の詩群からの引用と着想を含んだその詩はやたら長かった。彼の「一行目から書き始める、」という詩にならって、僕はその長詩に「最終行まで」というタイトルをつけた。詩の中ではっきりと書いていないし注意書きにも引用の出典を記していなかったが、勘のよい人ならば
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