ピラニア/「Y」
た。明が僕に渡した手紙の中で、十一歳のときに手術を受け、成功した、と書いていたのは嘘ではなかった。昨年の暮れに、症状が再発していたのだ。そして、今年の一月に都内の中学を受験したときには既に、試験の結果とは関わりなしに長野に移ることを決めていたのだった。
帰宅したあと、僕は食事もせずに部屋に籠もった。そして、机の引出しから、明にもらった標本を出した。僕は宝石箱を思わせるその小さな木箱を開けた。標本箱の中は、モンシロチョウを中心にして、白く細やかな光に充たされていた。その光の世界は、明が死への恐怖を自らの手で封じ込めた世界だった。
不意に、明がこの標本箱を携えて僕の家を訪れた日、庭先で椿の横に佇
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