ピラニア/「Y」
った。そして、汚泥のように僕の胃や喉を塞いだ。僕はひどい胸苦しさを感じながら、車窓を流れる景色を眺めていた。
明の家は、長野駅からバスで一時間ほどのところにあった。玄関で僕を迎えたのは明の母親だった。痩身で膚の色が白く、どこか山羊を連想させる彼女の貌(かお)のなかに、僕は明の姿をはっきりと見た。
線香をあげたあと、僕は新幹線の車中からずっと心を引き摺っていたことを確かめるために、明の母に問うた。彼女の答えは、僕が懼れていたとおりのものだった。
明は長野に転地してすぐに、県内の国立病院で手術を受けたものの、術後の経過が思わしくなく、今年の九月に再手術をして、その数日後に命を落としていた。
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