ピラニア/「Y」
 
……箱の中身はモンシロ蝶だ。そしてそれは、そこらで見かけるものとは違う、非常に珍しい種類のものなんだ。もちろん、蝶の標本なんて、君にとってはさほど興味を惹くものでないことは、よく分かっている。だけど、大学に寄贈することがどうしてもできなかった、僕にとっての宝物を君に渡すというアイデアが浮かんだとき、ぼくは興奮しないわけにはいかなかった。
 隆はもう忘れていると思うけど、去年の秋、隆の部屋で標本の話をしかけたことがあった。もう少しで話せそうだったけど、やっぱり怖くて話すことができなかった。迷信じみたことだけど、このことを話すと死んでしまうような気がして仕方がなかったんだ。今回、手紙という形ではある
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