ピラニア/「Y」
 
い込んでいたんだ。どうせ死ぬなら、好きなことをして死んでいったほうがよいに決まっている。それで僕は、蝶を採り、それらの標本を作り続けた。今にして思えば、死んでもなお、標本箱の中で、己の美しい姿を保ち続ける蝶に、自分の心を託していたんだと思う。美しいものへの憧れ、死への不安、自分がこの世から消え去っていくことへの恐怖を、標本箱の中へ、僕は丹念に封じ込めていったんだ。
 十一歳になって、僕は心臓の手術を受けた。成功率の低い、難しい手術だったけれど、経過は良好だった。起きているときにも眠っているときにも、四六時中僕の傍らに寄り添っていた死が、遠いところへと離れていった。
 死への恐怖が去った後も、僕
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