ピラニア/「Y」
 
「これを渡すために来たんだ」
 と言った。
 そのあと明は、ジーンズの尻ポケットから出した茶封筒を僕に差し出した。開いたままの封筒の口から、折り畳まれた何枚もの紙が顔を覗かせていた。
「この封筒は、何」
「隆にあてた手紙だ。あとで読んでよ」
 僕は更に訊ねた。
「じゃあ、この箱は。宝石でも入っているのか」
 僕は明に冗談を言ったつもりだったが、明は笑わなかった。
「宝石か……まあ似たようなものかな。ここでは開けないで、あとで開けてよ。お日様の光に弱いから」
と言ったきり、明は急に言葉を喪ってしまったかのように、口を噤んで僕の顔をじっと見詰め続けた。明の表情は、今まで僕が見たことも
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