ピラニア/「Y」
 
、大丈夫、心配ない。と答えた。少しの間沈黙が訪れた。明は所在なさげに、庭の木々に視線を泳がせていた。そしてその後、不意に僕の方に向き直った。
 僕の目を真っ直ぐ見詰めながら明はぽつりと言った。
「今日の午後、この町を出る。長野県に引っ越す」
 僕は混乱した。なにしろ明は、ついこの前、志望していた私立の中学校に合格したばかりなのだ。
「学校はどうするの」
「学校? 地元の公立中学に通うよ」
 明は、勿体ないと呟いた僕の言葉に素っ気無く答えた。
「何の問題も無いよ。私立中学に行かなくたって医者にはなれる」
 そして明は、僕の胸に押し付けるようにして、抱えていた木箱を渡しながら、
「こ
[次のページ]
戻る   Point(4)