ピラニア/「Y」
 
えた。水の中ではビロードのように美しい動きを見せる胸鰭が、今は濡れ雑巾のようにそぼ濡れて、胴体から垂れている。
 そこには、普段僕がその魚に対して惹きつけられているものが、何一つとしてないようにさえ思えた。僕は不意に、一年以上も前、三社祭のあった二日後に、熱帯魚店で〈ピラニア・ピラヤ〉の成魚を眺めていたときのことを思い出した。あの時僕は、心の中に小さな石が転がっているような違和を感じていたのだ。その気分は急激に膨れ上がり、今ははっきりとした感触を伴って、僕の中にわだかまっていた。僕の目には、ピラニアの何もかもが――普段は僕のことをうっとりとさせずにはおかない、腹の朱色さえも――醜悪なものにしか映
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