ピラニア/「Y」
 
ながれていた。マルチーズは僕のことをじっと見ていた。躾けられているらしく吠えたりはしなかった。僕は立ち止まり、すこしの間マルチーズと見詰め合った。そしてその眼差しに吸い寄せられるように、犬に近づいていった。犬は軽く足踏みをして尻尾を振り、僕がしゃがみ込むと、僕の膝の上に前足を乗せた。僕は両脇に手を入れて犬を抱き上げた。興奮した犬は呼吸をすこし荒くしながら僕の頬を舐めた。
「チャコ、行くよ」
 人の声がした。顔を上げると、マルチーズの飼い主なのだろう、髪を茶色に染めた若い女の人が、コンビニの袋を片手に僕と犬を見下ろしていた。女の人の声を聞いた途端、犬はびくんと体をふるわせ、身悶えしながら僕の手か
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