紫煙/岡村明子
て
顔をそむけた男の姿を
瞼から
払うことができない
会社帰りにまた同じ道を通ったとき
そこには誰もないばかりか
何もなかった
花があれば
あの男は死んでいたということ
しかしなかったということは
あれはただの酔っ払いで
警官は家族を待っていたのかもしれない
安堵して家に帰ると
家人にだらしない酔っ払いの話をした
しかし家人は意外なことを言った
私か通り過ぎた三十分後
そこを通った家人は
ブルーシートの囲いを
見たと言う
中になにがあるかはわからなかったと
やはり
あれは生きてなかったのだ
変死体
たしかに変な死体だった
なんで
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