社会の一つとして個人を見てしまうあなたへの手紙/I.Yamaguchi
 
しかし、
十年経てばケンカは忘れ
獲物を捕らえた瞬間には爪の中で小鳥はもがき
人が息を止めた後も 心臓の動きを機械で見てしか
その死は確かめられないのです

個室病棟に祖父が移された後、ナース室の奥から
無表情なサイン波に聞き入ったことがありますが
変わらないテンポから聞こえる音は
終わりではなく、ストップウォッチのように
時間を一定に刻むのでした。
この音の刻む時間が長くなり、
ついには果てしなく長い時間を一つとして刻もうとするとき
祖父の死がつたえられるのは分かっていましたが
その死も医者から宣告されるまで
私は果てしない時間がもう一度、もう三度
区切れることを
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