夢は枯れ野に(1)/ならぢゅん(矮猫亭)
い部屋に隙間なく並べられた人形たち。異様な風景だ。早
く立ち去れ。二度と戻ってくるな。ここはもうお前の居場所ではな
い。芭蕉は無言の圧力のようなものを感じていたのではないか。
旅への畏れ、躊躇。
そして残される者への想い。
芭蕉が『おくのほそ道』の旅に出発するまでには更に時を要した。
病気のためとも、天候のためとも言われる。老いの目立つ芭蕉の身
を案じた門人たちは、せめて北国に遅い春の訪れるまではと旅立ち
を引き止めたであろう。だが。
それを振り払ってでも旅立つというほどには芭蕉の決意も熟してい
なかったのではないか。そして、いよいよ覚悟の固まったのが、あ
の有名
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