夢は枯れ野に(1)/ならぢゅん(矮猫亭)
 
   そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神の招きにあひて
   取もの手につかず

無常ということと旅に棲むということとの間に何があるのか。芭蕉
にしたところで何らかの確信を持って漂泊を続けたわけではないの
ではないか。何かに憑かれたように、未だ見ぬ風景に心を奪われ、
旅立たずにはいられない。

旅という福音。
あるいは呪縛。

   草の戸も住替る代ぞひなの家

『笈の小文』の旅から僅か半年。まだ住み慣れ始めたばかりの草庵
を芭蕉は去った。譲り受けたのは雛人形を商う者だったという。話
が決まると間もなく人形が運び込まれ、芭蕉庵は倉庫となった。

薄暗く狭い部
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