夢は枯れ野に(1)/ならぢゅん(矮猫亭)
た者も
いる。
芭蕉もそうした旅人の一人であった。
幼くして父を失った芭蕉は親戚の家で育てられた。少年時代、その
文才を認められ、後継ぎ息子の俳諧の相手として土地の有力者の家
に出仕。だが芭蕉は23歳にして、その主君を失い、栄達の道を閉ざ
された。このような生い立ちからすると、芭蕉は、取り残されるこ
との悲しみが身にしみていたはずだ。それなのに、なぜ、過ぎゆく
者の側に、去ってゆく者の側に芭蕉は立ったのだろう。
別の言い方をしてみよう。流転ということ、無常ということを強く
思い知らされた者が、それゆえにこそ日常を栖とせず、旅立ってゆ
くことの不思議さ。
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