ゆびあと/服部 剛
隣席で読書をしていた最後の客が
「ごあいそう」と席を立つと同時に
輪菓子(ドーナツ)の上で
結んだ小指をほどいた3人は
「ごちそうさま
ごちそうさま
ごちそうさま」
と3重奏の言葉をレジのママに告げ
金は払わず
白く濁った涙の固まる
背の低い蝋燭一つ置いて
店を出ていく
(「ちゃりん ちゃりん」と鳴く鈴の音を
そっと封じ込めるようにドアを閉めて )
都会の交差点
金髪の中年は、西へ
金曜日の恋人を探しに ゆく
若い未亡人は、東へ
夜の仕事に ゆく
ぎこちない青年は、北へ
サラリーマンやOL
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