「踏み切りの前に立つ人」 〜原民喜「心願の国」を読んで〜/服部 剛
 
とめている人たちの姿が浮かんでくる。
  人の世の生活に破れて、
  あがいてももがいても、もうどうにもならない場に
  突落してゐる人の影が、いつもこの線路のほとりを
  彷徨ってゐるやうにおもへるのだ。
  
  だが、さういふことを思い耽(ふけ)りながら、
  この踏切で立ちどまってゐる僕は、
  ・・・・・・僕の影もいつとはなしに
  この線路のまはりを彷徨ってゐるのではないか。 *



 この文を書いて後(のち)、彼は踏み切りの中の線路の上に横たわり、自
らの命を絶った。現代を生きる私達も、絶望的な戦中・戦後を生き
た作家・原民喜とは異なる心の
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