乳房〜その1/黒田康之
らないが
愛はいつだって
こんなにも簡単に
どこかに
それが
ついさっきまで
この手の中に
この胸の内に
こうして眠っていたとは
わからないくらい鮮やかに
行方不明になる
彼と別れて
黄色い電車が
レモン色の眠りとはかかわりのない
僕のベッドに僕を運んでゆく
君は
君は僕のベッドで
何よりも愛おしいものを抱くように
どんどんと
深く深く
その膝を抱いて僕を見ている
子供よりも
僕よりも
時間よりも
自分よりも
愛おしいものである君の膝は
君の乳房を
僕の知らない形に
この手のひらも
この愛さえも知らない形に歪ませてゆく
そうして
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