アドリブ集/藤原 実
走する遠近感によって対話されるだろう。レターボックスも燃える閑かな昼下
がり、釣瓶を落とす青空は深い井戸。マン・レイの震えるくちびる。ガラスの溜
息のように深い秋。月と太陽。今、触ろうとするのは発端と終焉の均衡。サー・
アルフレッド・ヒッチコックの退屈な心臓は熱望する、ルイス・ブニュエルの引
き締まった義足を。携帯電話は魂の位牌、機械仕掛けの巫女。散乱するのは壊れ
た自我、薔薇、水滴、燐寸、手術用手袋。おお、この憂鬱な積み木を突きくずし
てくれないか!キミの愛のアドリブで!
鏡の中の積み木がくずれる。すると・・・・・・世界がくずれる。忘れられた部屋の北
窓を開くと揚羽蝶が群れ立つ。
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