アドリブ集/藤原 実
 
つ。メッセンジャーは肉体を持たない影で、雲を持た
ない雨のなかを歩く。寒い卵が割れる。柩の中のせんちめんたるな死体は成長し
つづける。「去年の秋、手についた曼珠沙華の紅い色がいくら洗ってもおちない
の」。埋められた犬がザンゲと吠える。キミのお喋りがキミをもっと惨めにする
とき、すごい音のオートバイがコーナーを廻ってくる。過去はぎっしりと釘のつ
まった壜。告白されても、その蓋を開けるべきかどうかとまどうばかりだ。パイ
プという実体のくゆらす脳髄の祈りがテーブルクロスにされたピカソのなぐさみ
になるだろうか?未来という額縁に野火炎立つとき、コーヒーカップにエコーす
る半鐘の問いかけ。ギター、蝙蝠、痙攣する伽藍のような深い眼差し。恋と放火
魔と錠剤。

これらはすべて観念にすぎない。ただ非日常性に震える夏の光りだけが現実なの
だ、Please Kiss!


                    1999/05/16 0:02
戻る   Point(1)